いつもブログ内のイラストでお世話になっているArtemis様の
二次創作漫画です。
私が以前文章で書いた物を素敵な漫画で描いて下さいました。
(漫画の途中に動画もあり)
今、アニメでも第3シリーズがスタートしているキングダム。
合従軍と秦国軍の戦い。
函谷関での戦いと並行して、
咸陽宮の喉元に位置する蕞の城での戦いが今進行中です。
その中の場面が元になっています。
キングダムの主人公信と、もう一人の主人公と言われる政の
友情がテーマです。
民兵が多い蕞の城での戦い。
連日、不眠不休の戦いで民兵達の疲れは限界にきている。
最後の手段として政は、危険を承知で戦いの中に入っていく。
でも、それを敵兵が気付いて・・・
このブログのキングダム関連の記事内イラスト全て、
今回漫画描いて下さったArtemis様の作品です。
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ここからは、私が文章で書いたものを載せてます。
「騒ぎ立てるな。士気に関わる」
政は、自分の力で何とか立ち上がった。
その場で見ていて、政が斬られて命を落としたかとも思った秦国軍の兵士達は安堵した。
思った程深い傷ではなかったのか。
どう見ても相当に出血があるように見えるのだが・・・
政は兵士達に守られ、城壁の中まで下がる。
首筋の傷を抑えている手は鮮血で真っ赤に染まっていて、政が歩いて行く地面には、傷口から流れ落ちる血が点々と染みを作った。
それでも足取りはしっかりしているように見えた政の体は、外から見えない場所まで来た時に膝から崩れ落ちた。
受けた傷は、やはり浅くはなかった。
出血が酷い。
命をつなぐだけの血液が残っているうちに出血を止められるのか。
医者も設備も無いこの場所で、出来る限りの手当てをするしかなかった。
さっきまでしっかり歩いているように見えた政は、今は顔色も蒼白で意識が無い。
「大王様!!」誰かが叫んでいる声を、政はぼんやりした意識の中で聞いていた。
「まだ脈はしっかりしておられる」
「出来る限りの事を・・・」
誰かが周りで話しているのが微かに分かり、でもその声がだんだんに遠く聞こえるように感じた。
(母上のところにまた男が来ているのか・・・)
別に珍しい事ではなかった。
家に入れないなら外で寝るしかない。
幸いな事に雨は降っていないし、少し肌寒い程度なので河原で寝られそうだ。
この時間になれば起きている者はほとんどいない。
誰かに捕まって殴る蹴るの暴行を受ける心配も少ない。
いつからか真っ暗な道を怖いとは思わなくなった。
むしろ夜の方が安心出来る。
誰にも会わずに一人でいられるとても静かな時間。
河原に降りて行き、横になれそうな比較的平らな場所を見つける。
暴行を受けた傷や痣が消えないまま、また新しい傷が増えていき、横になってどんな姿勢をとっても体のあちこちが痛んだ。
それでもこの夜の時間だけは誰にも見つかりさえしなければとても平和だ。
眠ってしまえばその間だけは穏やかな時間が流れるはず・・・
(・・・誰かの足音が聞こえる・・)
体は冷たくて動かないのに、意識だけがはっきりしてきた。
(・・さっきのは夢か・・・?また、趙国にいた頃のあの夢・・・でも今俺の居る場所は・・)
扉が軋むようなギイッという音を、政の耳がとらえた。
ゆっくりと目を開ける。
少しぼやけた視界の中に人の姿が見える。
顔を向けた扉の方は暗くて、その者の顔がよく見えない。
「生きてっかー?」
聞き慣れた声がして、信が部屋に入って来る。
(・・・そうか・・俺は・・さっきのはやはり夢か・・眠っていたのか・・)
数秒間、意識の中で夢と現実が混ざりあう。
政は、信に顔を覗き込まれた時やっと意識がはっきりしてきた。
「さすがに顔色悪りーな」
信は、政が寝かされている寝台のすぐ近くまで来ている。
「色白がさらに真っ白だ」
何でもない事のように言いながら、信が声を立てて笑う。
政にとっては、変に心配されるよりずっと心地いい。
まるで深傷を負った事など無かったように、他愛のない事を普通に話し、冗談を言って笑い合った。
(信は誰よりも俺の事をいつもわかってくれている)
「明日本当に起きて大丈夫なのか?」
信は、どうせ言っても無駄だろうとは思いながら政に聞いた。
「別に剣を持って戦うわけではない。重傷を負って、もしかしたらもう死んだかと思われている俺が生きていて、皆の前に無事な姿を見せるという事だけでも士気は上がるはずだ」
「まあそりゃあそうだろうけど・・そんなんで立てんのかよ」
信は、口をきかなければ死人かとも思えるほどに血の気のない政の顔を見下ろしている。
「起き上がってみる。手を貸してくれ」
「え?!今からか?やめとけって」
「手を貸せと言っている」
「・・命令かよ。へいへい」
信は、政の肩を抱くようにしてゆっくり、寝台の上に座る姿勢まで起き上がらせた。
背中を支えながら様子を見る。
「大丈夫か?」
右手で背中を支えたまま、もう片方の手で、政の手を取って軽く握ってやった信は、その冷たさに驚いた。
本当に、命を繋ぐのにギリギリの血液しか残っていないのは明らかだった。
この状態で何故起き上がれるのかと信は思う。
体は限界にきていても、意思の力だけで立ち上がろうとする。
(まあわかんなくもねぇけどな・・・)
自分も戦いの場で、何度もこういう時があったという事を信は思い出した。
普段あまり感情を表に出さない政の、見た目に似合わない苛烈な一面も信はよく知っている。
言い出したら聞かないのは分かっているし、見守るしかない事も。
体の向きを変えた政は、寝台から足を下ろして床につけた。
立ち上がろうと足に体重を乗せた途端、バランスを崩す。
信が抱きとめなければ床に倒れていたかもしれない。
「すまない。もう大丈夫だ」
政がそう言ってもう一度自分で立ち上がろうとする。
「おぶってやるからつかまれよ」
信が、政の前に背中を向けてしゃがんだ。
「男がそんな無様なまねができるか」
政の答えを聞いて信は笑いをこらえた。
(こいつ全然変わってねぇな)
「頭でも打って余計明日起き上がれなくなったらどうすんだよ」
「俺はそんなにヤワではないぞ」
政はムッとして信を睨んだ。
(青っ白い顔で睨まれても怖くねぇんだけど)
信はそう思ったが、言うとまた政が怒るので黙っておくことにした。
それでも前と違ったのは、政は信におぶってもらう事をこれ以上拒否しなかった。
「俺も前にお前におぶって運んでもらった事あったしな。これで貸し借り無しな」
そう言って笑う信に素直に従った。
無様だとか何とか気にしていられない程今は体力が落ちているからというのもあるだろうが、同じ夢に向かう戦友として以前より自分を信頼してくれているのかと思えて信は嬉しかった。
部屋に一つだけある小さく切り取られた窓の近くまで行っても、政が最初に気がついたように外はとても静かだった。
介億が反対側の場所を伝えたため、皆はそちら側に行っている。
外はもうすっかり暗くなっていて、蒼黒い空には無数の星が散らばっていた。
今日は昨日までと違って、敵軍が夜襲と見せかけて一晩中音を出してくる事もなく、むしろ気味が悪いほど静かだ。
この蕞が落とされれば秦国が滅ぶという事も、そのギリギリの線で持ち堪えているという事も、一瞬忘れそうになるほどの静寂。
この場所に居るとあまりにも静かすぎて、秦国の存亡をかけた激しい戦いが今も続いているという事さえ、何か現実ではない遠い世界の事のような・・・そんな気持ちにもさせられる。
「見えるか?政」
「ああ」
政は顔を上げて窓の外を見た。
政は幼い頃の忌まわしい記憶から、普段は人に触れられる事すらあまり好まない。
安全を考えて作られた小さな窓は、それが無ければ昼間でも真っ暗な部屋の中に少し光を入れるためだけの物。
なので外から中が見えないように少し高い位置にある。
白く輝く月の光が、その窓から部屋の中にも微かに届いていた。
部屋の四隅に置かれている灯りと、外から微かに入る光によって作り出される部屋の中の光景は、どこか幻想的にさえ見える。
お互いに言葉を交わさなくても、二人は同じ事を思い出していた。
王都奪還の戦いの前。
抜け道の洞窟から出た時、空に月が輝いていた。
その時はまだ信頼関係もできていなかった二人だったが、それぞれの思いを持ちながら同じ月を見上げた。
一緒に戦い、同じ夢を持つ戦友となってから。
まだ子供だった二人は、咸陽宮の城壁の上でこれからの事を話した。
その時も、今のように同じ空を眺めた。
今は小さく切り取られた空しか見えなくても、この先に無限の広がりがある。
どんなに苦しい状況であっても、今生きていて空を見ている。
「お前が諦めねぇって言うんなら俺もついていく」
「当然だ。お前は俺の剣だからな」
酷い傷を負って自分で立つ事も無理な状態だというのに、口調だけは大王然としている。
それをからかってやろうかとも一瞬思った信だが、今日はやめておこうと黙っていた。
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