オリジナル短編小説です。
今のこの世の中、流されていくとこれからどうなっていくのか?
というところを想像して書いた架空の話です。
従うか戦うか離れるか・・・どの選択も自由だと思うし
何がいいとか悪いではないと思います。
「来月かそれとも来年か
とにかくもう少し待ってれば普通に戻るでしょう」
と考えている人も多いですが、それは無いのでは?
というのが私の考えです。
ここから小説本編です(4つに分かれてますが1本の話です)
終わった恋愛
ラインのトークルームごと削除した。
ブロックできないのはまだ、私の中に迷いがあるからかもしれない。
電話を着信拒否にする。
終わるしかなかった。
考えても仕方がない。
気を取り直してテレビでも観ようと思うのに、内容が全く入ってこない。
でも何か音が無いと寂しくて耐えられない。
無理にでも画面を見ると、東京都でまた新たに感染者が増えたというニュース。
変異株も出ているからワクチンを2回打っていても感染する。
違うチャンネルを観ても、どこでも同じことを言っている。
世間では、今の状況はこういう事なのだ。
それが真実であろうとなかろうと、世間と違う事を言うなんて私には出来ない。
もう終わったとわかっているのに最後のラインのやり取りを思い出す。
「結局私の事何も分かってない。一生困らせないって約束も出来ないくせに勝手な事言わないで。もう連絡してこないで」
「分かった。誰でも最終的にに決めるのは自分だから。俺はこれ以上言えない。今までありがとう」
それで終わった会話。
返信はせずに全部消した。
消したのに全部覚えている。
「これから先、そんなことでもし仕事がなくなったらお金も困るのに」
「仕事を続けている限り会社の人達との人間関係だってある」
「あんたの収入だけで大丈夫なわけないし・・・」
「会社を辞めてバイトで、いったいどうやってこれから生きていける?」
「私よりはまだ若いしいいよね。親の面倒も見なくていいし。私の立場なんかわかんないよね?」
「とにかく無理だから、もうそういう話持って来ないで」
「自分の気持ちが一番とかどうとか、そんな綺麗ごとで生活ができたらいいよね」
酷い事を沢山言ったかもしれない。
でも事実なんだからしょうがない。
私の人生を保証してくれるわけでもないのに勝手な事言わないで欲しい。
彼が、今の騒動はおかしいと言い出したのは去年の春からだった。
ワクチンの接種が始まると今度は、そのワクチンが危ないと言い出した。
たしかに、大きく報道される内容と、隠される内容がある。
コロナがそこまで恐ろしい病気なのかあやしいところもある。
裏では利権が動いている。
ワクチンの効果も副反応もまだ未知数。
確かに言われてみれば納得できる部分は多いけど・・・
だから彼の言う事を「分からなくはない」とも言ったけど。
でも、だからと言って、もし仮にその通りだとしても・・・
私にどうこうできるわけない。
そんな事思ってるとか絶対人に言えないし、職場ではなおさら。
私には立場がある。
ちゃんとした会社で収入を得て、これからも暮らさないといけない。
私は彼とは違う。
来月は会社での2回目の接種がある。
1回目打った時は、しばらくだるくて熱っぽかったけど2日程度で元に戻った。
ちょうど休み前だったので、仕事にも差し支えなかった。
2回目の方が副反応きついとか言うけど、そのために休みも取ったし大丈夫だろう。
疑問があるなら2回目は打たない方がいいとか、彼は勝手な事を言ったけどそんなの通るわけない。
強制に近い事を言われたから会社を辞めるなんて馬鹿がすることだ。
何が起きてる?
会社へ行けなくなってから一週間が過ぎた。
最初の3日ほどは高熱が続いた。
でもそれは予想の範囲だった。
そうなった同僚もいるし、そういう情報も聞いている。
今は高熱は下がって最初よりはましになったけれど、全身の倦怠感がひどい。
歩くと目眩がする。
トイレやシャワーなど日常の事はかろうじてできるというこの状態で、満員電車に乗って会社へ行き、終業まで働くなんて不可能だ。
会社に連絡して、もう一週間休む事を伝えた。
私より早く2回目の接種を受けた父は、病院に入院している。
70歳を過ぎているし、元々糖尿の気が少しあった。
接種して数日後に具合が悪くなって病院に行ったら、コロナ感染という事だった。
後遺症があったようで今も退院できていない。
父が入院した日、私も検査を受けたけれどその時は陰性だった。
父に会えないのは寂しいけれど、今は仕方ない。
母が突然亡くなったのは、父が入院するより少し前。
1回目の接種を父と一緒に受けに行った時は元気だったのに。
その3日後に、突然倒れて救急車を呼んだらしい。
私は仕事に行っていて、早退して慌てて駆け付けた時はもう遅かった。
原因は、くも膜下出血。人間、いつどうなるかわからない。
病院の診断ではワクチン接種との因果関係は無く、高齢という事もあって血管が詰まりやすくなっていたらしい。
その時は何か現実感が無くて涙が出なかった。
落ち着いてくると逆に悲しみが込み上げてくる。
でもこれも仕方ない。
人間だれしも、いつか何かで死ぬ。
普通の順番からいったら、親が私より先に死ぬ。
悲しいけどこれは自然なことと受け止めるしかない。
皮肉な事に、今は自分の体調が悪すぎて、2週間前に彼との連絡が途絶えた事も、この春に母が亡くなった事も、父が入院した事も、悲しんでいる余裕もない。
休んだ分仕事も溜まっている。
きっと皆に迷惑もかけている。
せめてラインか電話で連絡ぐらいは・・・と思うけれど、頭が働かない。体を動かすのが辛い。
とにかく体を休めるしかない。
あと少し休んだら、きっと大丈夫。
これからどうするのか
半分予想していた事とはいえ、本当にそうなってみると衝撃が大きい。
社長の話している事が遠くに聞こえるようで、断片的にしか頭に入ってこなかった。
「・・・・それ以上無理しない方がいいと思う・・・・失業保険はもらえるだろうし・・・聞いてるのか?」
「・・・もう来なくていいって意味ですよね」
立っているのがやっとだった。
「皆が打つから、会社でもすすめられたからワクチン打ったのに・・・それで具合悪くなったらクビってことですか?」
「会社では強制はしていない。それに、ワクチンが原因かどうかもわからないだろう。病院でもそう言われたんじゃないのか。うちの社員でもバイトでも、他にそこまで具合悪くなった者はいない」
挨拶もせずに会社を出てきた。
ああ言われてしまったら泣き寝入りしかない。
3ヶ月休んで復帰しても、ほとんどまともに仕事ができなかった。
会社としては私をこれ以上置いておく理由は無いのだろう。
私のやっていた仕事ができる人は他にもいる。
病院でも、ワクチンとの関連性は認められないと言われた。
彼からの連絡は、あれ以来こない。
ブロックしたわけじゃないから連絡は出来るはずなのに。
もう連絡する気が無いのか・・・
父はまだ退院出来ていない。
自宅に帰っても一人。
外出する体力も無い。
掃除や料理をする気力もない。
ペットボトルとコンビニのパンの袋が部屋に散らばっている事もわかっているけど。
そうだよね。
明日から会社行かなくていいから。
このまま無理せずにゆっくり休んだら、もしかしたらよくなるかもしれない。
失業保険ある間休めば・・・
そしたらまた何か仕事もきっと・・・
私は何か間違ったのか?
病院から電話があった時は信じられなかった。
父が亡くなった。
あれから1ヶ月経って、やっと現実を受け入れる気持ちになってきた。
それでも何もする気が起きない事は変わらない。
病院に行くほどでもないけれど、体調がすぐれない事も変わらない。
仕事に行けるほどの自信が無い。
やっとの思いで業者に電話をして、家の片付けを頼んだ。
両親が残してくれたこの家はローンも終わっているし、他に残してくれたお金と失業保険の残りで2年くらいは働かなくても食べていけそうだ。
でもそれから先はどうする?
彼からは一度も連絡が無いまま半年以上が過ぎた。
ふいに思いついてSNSをのぞいたら、他の女性も含む新しい友達と楽しく過ごしているらしいことが分かった。
見なければよかった。
この体調の悪さで、失業中で、恋活というわけにもいかない。
今年誕生日が来たらもう40歳になる。
恋愛や結婚を考えると焦るけど、逆に人生はまだ長い。
これからもずっと一人?
今の体調でも出来る仕事ってあるんだろうか?
本当にどうしようもなくなったら何か公的機関からの援助は・・・
ただ生きているだけの今って楽しい?
楽しい・・・そんな事思ったのっていつだっけ・・・
音が無いと寂しいのでずっとつけっぱなしにしているテレビから、ニュースが流れている。
新規感染者数は増える一方。
変異株の脅威。
ワクチンを打った人も感染している。
感染対策は更に徹底しなければならない。
外出自粛を。
街中でも倒れる人が続出。
3回目のワクチンの接種も始まっている。
自粛と言われなくてもどうせ出かける体力は無い。
ワクチン打っても感染するんなら何のために打ったんだろう。
結局何にも収束なんかしてない。
3回目打ったらどうなるんだろう・・・
夜は外出が禁止になり、店はほとんど閉まっているらしい。
違反者を見つけるために街のいたるところに監視カメラが付いているらしい。
私は出かけないから別にもうどうでもいいけど。
ワクチン接種証明のために体内に埋めたマイクロチップがあるから、体調に異変があった時にもすぐに対応してもらえるらしい。
一人なのでそれだけでも安心と言えば安心。
色んな情報がこの中に入ってるんだから、全部丸見えってことだけど。
今はそれが普通だし、別にいいやと思う。
最近はVRの機械も買ったから、これだけは楽しみ。
そう。リアルでの楽しみはもうないけど、この中にいる時は私は別人になれる。
仮想空間で友達もできるし彼氏も出来る。
何処へだって行けるしどんな体験もできる。
ソファーに寝そべったままでも私は自由になれる。
これだって悪くないよね。
ここに帰ってくると現実に戻るけど。
好きなだけ旅をしてこれるんだからいいよね。
どっちが現実なんだかそのうちわからなくなるかもね。
帰ってきた時、時々思い出すことがあるけど、それだってきっとそのうち忘れる。
会社での仕事は好きだった。
大学を卒業して、行きたかった会社に入れて、私なりに精一杯頑張ってきた。
父も母も元気だった頃。
母は料理が得意でいつも美味しい料理を作ってくれた。
食事の時間は笑いが絶えなかった。
父は絵を描くのが得意で、定年退職後は毎日何か描いていた。
両親とも外出が好きで友達も多かった。
家にもよく友達が来ていた。
彼と知り合ったのは旅行先。
彼がうちに遊びに来た事もあった。
父も母も彼を気に入っていた。
私より4歳下で、明るくて、優しくて、友達が多くて・・・
掃除に来てもらってから前よりは随分マシになったけれど、私以外誰もいない家。
誰も来ない家の殺風景な部屋の隅に、大きなテレビだけが目立っている。
テレビの中でアナウンサーが話している。
「今日の東京都の感染者数は・・・・」
これが現実なんだ。
時々思う。
ワクチン接種が始まった時、
もし彼の話をもっと聞いていたら・・・
もし会社でほとんどの人が打っても自分はワクチンんを打たなかったら・・・
もし今頃体調が悪くなかったら・・・
もし今健康で仕事ができていたら・・・
それなら最悪あの会社を辞めても今よりは・・・
もし今彼とうまくいっていたら・・・
もし今一人じゃなかったら・・・
考えると辛い。
やめよう。
仮想空間の中でだったら、何でも叶うんだから。
きっとどっちが現実かなんてそのうち忘れるよね。
だからきっと大丈夫だよね。
これだってきっと悪くないよね。
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